膠原病

全身性エリテマトーデス(SLE)の原因


SLEの原因は、ほとんどわかっていません。リスク因子もひとつではありません。遺伝的な素因に、環境的な因子が加わり、異常な免疫反応が起こって発症すると考えられます。

遺伝、免疫、ホルモン、環境要因などが複雑に関係する

まだSLEの原因は、ほとんどわかっていません。ただ、わかっているのは、その病因には遺伝、免疫、ホルモン、環境要因などが複雑に関係しているということです。ここでは、SLEはなぜ臓器に病変をおこすのかについて説明します。

免疫異常

デオキシリボ抗酸(DNA)
SLEにおける臓器障害は、 DNAと抗DNA抗体の結合物である免疫複合体が組織沈着するためにおこります。ところで、DNAとは デオキシリボ抗酸のことです。DNAは細胞の中にある核に存在します。すなわち、遺伝子そのものがDNAです。したがって、DNAは自己抗原ということになります。SLEにかかった人は、自分のからだの成分であるDNAに対して抗体をつくってしまいます。それがなぜおこるのか、という原因はわかっていません。
DNAに対する抗体ができると、抗原であるDNAと結合して免疫複合体とよばれる物質になります。免疫複合体ができても少量のときは、からだの中の肝臓や脾臓でこれらの物質は処理されます。からだに内蔵された フェイル・セーフメカニズムです。しかし、免疫複合体が大量にできた場合には、もはやからだはこれを処理しきれず、免疫複合体は血液の中を循環することになります。すると、免疫複合体はからだの中のさまざまな臓器に沈着してしまいます。沈着しやすい組織としては、豊富な血管をもつ腎臓や脳などの臓器があげられます。免疫複合体が組織に沈着すると、そこに血液の中にある補体とよばれる物質が動員され、その場所で激しい炎症が始まります。このため、SLEは 免疫複合体病とか、 免疫複合体沈着病とよばれることがあります。
腎臓でこの反応がおこると、ループス腎炎とよばれる状態になりますし、脳でおこると中枢神経ルーブスとよばれる重篤な状態になります。また、胸膜や腹膜でおこったときには、炎症をおこした血管から水分がしみ出すことによって、そこに体液がたまります。これが胸水がたまる胸膜炎とか、あるいは腹水がたまる腹膜炎とよばれる病態です。また、この反応が広汎におこる場合には、蔣膜炎とよばれます。

環境的な因子


南国へ旅行に行ったり、スキーをしたり、運動会で一日炎天下にいたりして強い紫外線を浴び、重い日焼けをすると、SLEが発症したり悪化することがあります。曇天でも(晴天の50%の)紫外線が当たります。
紫外線暴露がSLEの危険因子になることは、よく知られています。そのほか、ウイルス感染、外傷、手術、妊娠出産、薬剤なども、SLEを誘引する環境因子とされています。

●紫外線


皮膚の表面にあるケラチノサイトという細胞は、紫外線にあたると、タンパク質成分が細胞の表面に移動。これに、血清の中の抗体が反応してアポトーシス(細胞死)を誘導し、皮膚障害や皮膚炎を起こすとされています。

●感染


ウイルス感染は、免疫システムの変化を引き起こします。感染によって自己の成分が変化し、それが異物と誤認されてしまって、異常な自己免疫反応が起こると思われるのです。動物実験では、レトロウイルスがSLEの発症にかかわることが明らかになっていますが、ヒトの場合は、まだ決定的な証拠は得られていません。ほかに、細菌や寄生虫による感染でも、免疫異常を起こすと考えられます。

●外傷、外科手術


体が傷つくことをきっかけに、発症することがあります。

●妊娠


出産一胎児という、女性の体にとっては一種の「異物」が出現することは、免疫機能に大きな影響を与えます。

●薬剤


一般的な薬剤(塩酸プロカインアミド、塩酸ヒドララジン、クロルプロマジン、メチルドパなど)によって、SLEのような病態が起こることがあり、「薬剤誘発性ループス」といいます。この場合、原因となる薬剤を中止すれば症状は軽快します。

●遺伝的な素因


SLEは、血友病のような遺伝病ではありませんが、かかりやすい体質や素因を受け継ぐことはあります。遺伝子が同じ、一卵性双生児の場合。1人がSLEになると、もう1人もSLEを発症する確率(発症一致率)は、およそ25%。遺伝子の違う二卵性双生児の発症一致率はずっと低く、5~10%程度です。また、同じ家系内でSLEを発症する率は、一般の発症率よりは高いものの、1%に満たないくらいです。ほかの自己免疫疾患をみると、たとえば甲状腺疾患のバセドゥ病は17%程度ですから、はるかに低い確率です。
つまり、SLEになりやすい体質が遺伝されているとしても、必ずしも発症するとは限らないのです。SLEは遺伝子がすべてを決めるわけではなく、環境的な要因などが加わり、異常な免疫反応が起こったとき、病気になると考えられます。

●女性ホルモンの影響


SLEでは、月経の直前や、妊娠をすると病気の活動性が高まります。また、高用量のエストロゲンを含んだ避妊薬が症状を悪化させることがあります。一方、閉経をすると、病気の再燃が少なくなります。
女性ホルモンは、抗体や、炎症にかかわるサイトカインなどの物質をつくりやすくする働きがあり、SLEの病態と深くかかわります。つまり、女性ホルモンそのものは発病のきっかけにはならないのですが、いったん異常な免疫反応が起こると、これを強める方向に働くと思われます。